ハルじいさんの著作権コラム  -   ← シリーズ1へ     |    【 シリーズ2 】


   【 シリーズ2 プレリュード 】 契約は怖くない~でも本当は怖い!?  [2007/12/12]

ハルじいさんは考えた。著作権のことをいろいろ並べてみても、あまり面白くはないかな。 まあ、面白いことを書こうとしていたわけではないが、興味を持っていないとピンと来る話ではないかもしれない。 それに、何といっても面白そうな話をする前に、基本(は重要なんだよ)を押さえておかなければならない。 だから退屈な話も多かったかも…

そこで考えた。この際見方をエイヤっと変えてしまおうと。これからは契約にまつわる、まとわりつく話をしていこう。 「著作権だけでもうんざりなのに、今度は契約!?」とおっしゃるあなた。 音楽と契約は切っても切れない縁だ (ただ「僕はCD-Rを手売りしているだけですが…」という人は別だがな)。

タイトルを見ただけで「なにそれ、怖いの、怖くないの、どっちなの? やっぱり怖いの?」という具合で、本当に怖くなったあなた。 正解だよ、それは。だが、

  なぜ契約しなければいけないのか
  契約とはどんなものなのか

が解れば恐れる必要はない。このタイトルはずばり、「契約は怖い!!」ともしたかった。 怖いからこそ、その内容を知れば怖くなくなるということだ。では始めることにしよう。

   【1】 何で契約がいるの!?  [2007/12/12]

これがまず、素朴な疑問として出てくるだろう。「契約書なんて見たことも聞いたこともない」からね。 ごもっとも。契約の話をしようとしている私も、個人的にはいろいろな契約をしているけれど、現物はチラッと見る程度だ。 仕事上では、たくさんの契約書を見て、作っているのにね。

ところで個人的な契約書というのは、次のようなものかな。

たとえば部屋を借りていた時。契約更新時に余計な(!? 失礼!!)金を取られるので、その時期は把握していたが、契約書の中で注目していたのはそれくらい。

たとえばローン契約。毎月いくら払って、いつ終わるかくらいしか気にしていない。

たとえば生命保険。必ず「契約約款」(契約書の中身を書いたもの)を渡されるが、これなんか初めから読まれることを期待していない。

この契約約款というもの、ケータイの取扱説明書と同じような厚さ、紙(ということは、とってもページ数がある)で、しかも字はこちらの方が小さい。

この契約約款、全部読んだ人なんていないのでは… 実は保険外交員(保険屋さん)も読んでなかったりして。 だから、保険金の支払いでトラブルが生じる…(笑) って言ったって、皆さんにはあまり関係ないか。

そう、契約書なんて全部読む必要は全然ない。普段はどこにあるか解らなくてもへっちゃら。 けれどもとても大切なもの、特に音楽をやっていく上では… ただし、音楽とは言ってもジャズミュージシャンのように

  自分で曲を作ることはない
  ライブ中心、いやライブだけの活動
  レコーディングで金を稼ぐこともない

ならば、契約のことを考える必要はない。
仕事をしている中で、「1本1本ギャラを決めて、それをもらってる」だけなら契約は要らない(本当は契約した方がいいけどね)。

ところが印税をもらうとなると契約は絶対必要になる。 なぜなら、印税は「売れれば、ザックザック入ってくる」代わりに「売れなければ、ほんの少々」だから。 なぜかというと「1枚あたりは~円と決める」けれど、いくら入るかは売れた枚数によって決まるのだから、ギャラのように「ハイ、5万円ね」とはいかないから。

ちなみに印税のように金額がいくらかはっきりしないものは、金額が「不明」なのではなく金額が「不定」だという。

その上対象となるものが、形がない音楽だから。詞も曲も、そして演奏も形がない。 詞や曲を楽譜に表すと、いかにも形がありそうだが、それは音楽の実態ではない。 演奏にしても音は空気の振動にすぎないのだから、現れては消えるだけのものだ。 そういうものからお金をもらおうとしたら、紙に書いた契約書にハンコを押しておかないといけない。

このように二重の意味で実体がないものを取り扱うためには契約書が不可欠だ。 「なるほど大事なことは解りました。けれど中身が解りません。」確かに。それは、少しずつ説明していこう。

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   【2】 危ない人 その1 ~ やたらに音源をばらまく人  [2007/12/25]

オーディションは色んなところで行われている。そして応募する人が多い。 普通の場合、まずデモテープ(今はデモCD-Rでしょうね)を送り、そこで選ばれた人が生でのオーディションを受けるという形だろう。 ということで、募集を見つけたら何でもかんでもデモテープを送っている人はいないだろうか。

確かに大手のレコード会社、大手のプロダクションそれから大手の音楽出版社なら、これから語る心配はないだろう (その代わり「担当者が責任をもって聴きます」なんて書いてあっても、聴かずにゴミ箱へ、なんていうこともあり得る、かもしれないけど)。 訳の解らない会社に送ったりしたら、下手をすると取り返しのつかないことになるかもしれない。

聴いてもらわなければ始まらない、そしてどのオーディションサイトを見ても「ちゃんと聴くよ」と書いてある。 だから聴いてもらうためにデモテープを送るわけだよね。だがそこにはリスクが伴う。

個人情報保護法というものができたことは知っているだろう。「そんなこと会社の話でしょ」なんてのんきに構えていてはいけない。 たとえばケータイ。こいつを失くしたとする。この中にはたくさんの電話番号その他の情報が入っているよね。 こうした電話番号を、拾った誰かに悪用されたとしたら… あなたはお友達から訴えられるかもしれない。 個人情報はこれだけ大事で、怖いものなんだ。

あなたが送ったデモテープも同じこと。個人情報なんだ。しかもこいつは今、デジタルだ。 音質に少々目をつぶれば音楽業界で言う原盤となってしまう。これを使って一般市販用のCDを製造することもできてしまう。 大手はともかく、あまり聞いたことがない(業界では有名でも、あなたとしては聞いたことがない、ことで十分)会社にデモテープを送ることに不安を感じないかい?

それからデモテープが、そしてあなた本人がある会社の目(じゃない、耳か)に止まったとして、そこには必ず「権利は全部いただきます」というふうになっている。 オーディションを通ったら通ったで、今度は権利的にがんじがらめになる可能性が非常に高い。その覚悟はあなたにできているだろうか。

私は何も「音楽業界の全部があなたの創り出す音楽を狙っているハゲタカだ」などというつもりは全然ない。 自信があるのなら、大いにオーディションにエントリーすべきだ。音楽なのだから聴いてもらわなければ始まらないのだから。 けれども、その時エントリーする会社を、よくよく見極めてほしいということだ。

《重要な補足》
さっき私は「権利は全部いただきます」とは書いた。とすると「では僕に1円もお金は入ってこないの」とくれぐれも誤解しないでほしい。 大手に限らずちゃんとした会社なら、契約の上しかるべきものを会社がちょうだいしますよ、ということになる。 あなたにお金がまったく入らないことはない。その点は心配しなくてもいい。 ただ、他にも気に入った人が出てきて、もっといい条件を提示してくれたとしても、 契約を交わして権利を渡してしまった著作権、原盤はなかなか取り戻しにくいということはある。

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   【3】 危ない人 その2 ~ 契約しないで突き進む人  [2007/12/25]

今度はもっと危ない人の話。幸い誰かの耳に止まってCDを出してくれることになった。 会社もプロモーションをちゃんとやってくれるようだ。インディーズだけれど、置いてもらえるCDショップもいくつもあるという話だ。 ただ発売するだけじゃなくて、売ってくれそうなのだ。こんな話には、喜んで乗るだろう。 「おめでとう! 成功への第一歩を踏み出したね」と言いたいところだが…

あなたは契約をしましたか? 相手は契約書を提示してくれましたか? まさか口約束じゃないでしょうね。 実を言うと、大手のレコード会社でもCD発売までの工程が間に合わないので契約を取り交わさずに作業≒レコーディングに入ってしまうことがある。 ただこれは少々意味が違う。 お互い大筋の合意はできているのだが、細部の詰めをしなければならないとか、お互い会社同士なのでそんなに一方的にひどいことはしないとか、が理由だからだ (細部で衝突してしまって、結局発売できなくなるなんてことも、ないことはない)。

あなたは素人だ。「音楽業界での常識」というものにもそれほど接していないはずだ。 もっとも今はインターネットで色々情報を得ることができる。このじいさんの若かった頃とはえらい違いだ。 けれども、そうした情報はあまり鵜呑みにしないでほしい。 私が見るところ、業界にはいるが権利的には詳しく知らない人、どこかの会社にだまされたことがある人、が書いたものをよく見かける。 一つの考え、情報だけではなく他のものも色々見てみよう。その点私の書いているものは信頼がおける…

冗談はさておき(いや、本気で言っているよ)、素人が会社相手に口約束で済ませるというのは、どう考えても危険だ。 たとえばいくらお金がもらえるのか、たとえば権利はどうなっているのか、たとえばいつになったらあなたのところに戻ってくるのか…  こうしたことがはっきりさせないでCDを出してもらうのだけは絶対にやめてほしい。

「発売前にお金をもらっているから大丈夫ですよ」とか「この前ちゃんと印税をもらったから大丈夫ですよ」 (なに、この違いが解らない? 私の「シリーズ1」を見ること!) とかであっても問題がある。あなたはお金がほしいだけで曲を作ったのか、演奏したのか(まあ、それでもかまわんが…)。 もっと別の理由も、たくさんあるはずだ。契約で権利のこと(お金のことは権利の一部にすぎない)をはっきりさせておかないと大変なことになるかもしれない。

お金になったとして、一体あなたの何がお金になったのだろうか。 詞や曲を書き、そして自分で演奏したとなると、そのどの部分がお金になったのだろうか。 たぶんCDを発売した会社の方では「すべてひっくるめて」というつもりだろう。 この場合音楽業界では「原盤、出版」込みで、といった言い方をする。出版(権)というのは著作権のこと。 ちなみにこの言い方は音楽業界だけで通用する。

そうでないのかもしれない。そうなのかもしれない。でもそうだったとしても、著作権を完全に会社がもらうことはできない。 著作権法上でね。それはともかく、こんな危険なことはない。 CDを発売する、それに当たってお金を払ってくれる、こうしたことになったら「ええと、契約書は…」と言ってみよう。 大きい、小さいは関係なくちゃんとした会社なら契約書を用意してくれるはずだ。

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   【4】 危ない人 その3 ~ すぐハンコを押してしまう人  [2007/12/25]

契約の大切さはしつこくしつこく、繰り返し繰り返し言ってきたつもりだ。 ならば契約さえすればいいのだろうか。中身をよく見ないで契約してしまってもいいのだろうか。 これによって、下手をすると一生を、少なくとも音楽をやっていく上でのすべてを決められてしまうかもしれない。 慎重に読まなければならない。それだけでなく、たいていの人は契約書を見ることは初めてだろう。 よく見ないで、読まないで契約していいはずがない。

見なくてもあまり差し支えのない契約書もあることはある。たとえば1回目に言った部屋を借りる契約。
私の場合もそうだったが標準書式(印刷したもの)があって、そこに名前、住所とかを書き込んだものを使っていた。
こうしたものなら、さらっと斜め読みする程度でいいかもしれない。
なぜなら、みんなが使っているものだから…

 「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というギャグをツービートのたけし(ビートたけし、北野武)さんが昔言っていた通り。 ただ本当は、赤信号だろうが青信号だろうが、みんなで渡ろうが一人で渡ろうが、道路を横断する時は一人ひとりが注意しなければいけないんだけどね。

これと違って標準書式のいいところは「もしまずい点があったら、誰かが指摘している」から。
まずい点があっても、誰かが直しているので今は正しくなっている(だろう、たぶん…)からだ。

ところが音楽業界の契約なんて、あることは話に聞いていても見たことはない。 そんなものを斜め読みでいいはずがない。まして、いきなり初めて見る契約書にハンコを押していいはずがない。 そこで契約書を出されたら、その場で読むのではなく「持って帰ってゆっくり読ませてください」とでも言おう、仮に読まないとしても…  いやいや、読まなければならない。

さて、ゆっくり読んだところで解るものなのだろうか。 確かに日本語で書いてある文章なのだから、読んでも言葉や中身が解らないということはないはずだ。
けれども契約書特有の言葉とか言い回しがある。時には、普通の使い方と違う場合もある。
たとえば「~とみなす(看做す)」という言葉がある。 この言葉は、普通なら「~と考える」とか「~と思って差し支えない」という意味だが、 法律の中では「~である、だ」つまりそのものだという断定的な意味で使われる。
まあこういう言葉は、音楽業界の契約書では(私の経験上)あまり出てこないだろうが、出てきたら注意しなければならない。

それよりも厄介なのは、一体何が言いたいのか、がよく解らないことだろう。 あなたは「自分の演奏を録音したものに基づいてCDができるから、それが売れたらお金をもらえるという内容なんでしょ!?」と思っていらっしゃるだろう。 それはそれで、正しい。だが契約書を読んでも、そう理解できるようには書いていない。 それなら、自分の親や兄姉にそして先輩に読んでもらおう、信頼できる目上の人に。ただ残念ながら状況はあまり変わらないだろう。 やっぱり解らないと思う。だってそういう人たちだって、契約書を読むのは初めてだから。ではどうしたらいいんだろう?

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   【5】 危ない人 その4 ~ 業界の同類たち

ここのところ脅かしてばかりのようだった。音楽業界なんて、なんだかおっかない人の集団のように思えてきた…  業界のことを何も知らない人をだまくらかすヤカラは、残念ながらいるには、いる。ただ音楽業界に限っては、まだ少ないのではないだろうか。

渋谷、竹下通り辺りをうろうろしていると、いかにも業界の人!! っていうのを見かけるだろう。 たいていはモデルのスカウトマンだ。彼らの探し方のポイントは、はっきり言ってルックスのみ。 歩き方がどうこうとか、声がどうこうとか、ましてや歌がうまいとかは全然関係ない。 だから街中でもスカウトできる。というかその方が、可能性が高い。

こんな人たちは、すぐに「うちの事務所に入りませんか?」ということになる。そしてすぐ契約ということになる。 というのも、彼ら、事務所にはほとんどリスクがないから。積極的にプロモーションするわけではないから、お金がかからない。 むしろ「登録料として」何がしかのお金をちょうだいする(そしてその事務所の作成するカタログに掲載する)。

これに対して音楽の場合は、会社の方が一切金銭的な負担がない、ということはほとんどない。

アメリカのことなので少々事情は違うが、皆さんはチャック・ベリーというロックンローラーをご存知だろうか。 最近の記事を読むと、まるで「金の亡者」のような言われ方をしている。 でもこれは、理由があってのこと。若い時に訳も解らないまま契約書にサインさせられ、印税が入ってこなかった経験があるらしい。

「訳も解らず契約書に」… なんてところは、今の日本にもあるかもしれない。 でも(一説によると)T-ボーン・ウォーカーというブルースミュージシャンは字も読めないのに契約させられて、 印税がもらえなかったなんていうひどいことに比べれば、今の日本やチャック・ベリーはまだマシだろうね。

ちょっと考えれば解ると思うけれど、こんなゴロツキみたいな人間は、(日本にいたとしても)絶滅してるだろうね。 たとえば夜な夜なライブハウスに出入りして、ちょっと気に入ったアーティストを見つけると 「君の曲いいね。契約しないかい?」 なんて、懐から契約書を出す… いるわけないよね。 なに、いた!? しかもハンコ押しちゃった!? なんてことないよね。

音楽をやってく上で、どこにお金がかかるのだろうか。 原盤を制作する、CDを製造する、CDのプロモーションをする… 全部にお金はかかる。 でもこれらは会社がやること。ミュージシャンがこういうことにお金を出さなければならないことは原則的に、ない。 あるとするならば、会社がそこまでリスクを負いたくないから。 (まあ「30万出したら、CDを出してやるよ」という話よりは、遥かにマシだけど…) ということは、 あなたが売れようが売れまいが関係ないとも言える。 要するに商売じゃない。むしろ 「あなたから金を出させることが商売」 といった方がいいくらい。 こういう人たちには、くれぐれも注意しよう。

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   【6】 危ない人 その5 ~ 悪気のない業界人  [2008/1/29]

前回でミュージシャン(の卵)から何とか金を引っ張り出そうというのは、あまり一般的な商売の仕方じゃないことはお解りいただけたと思う。 では普通のギョーカイにいる人は、どんな人たちなのだろうか。世話好きで、話好きで、人脈を大事にする人たち。そんなところかな。 そんな(とてもウソなどつきそうもない、人のよさそうな)ギョーカイの人(←これはホント)に気に入ってもらえたとする。 ライブハウスなんかでも、そんな可能性は大いにある。

そして「じゃあ一緒にやってこうよ」という話になった。

 ハッピー
 天にも昇る気持ち
 ついにプロ

おめでとう。心から祝福しよう、まだスタートラインに立っただけだけどね。そうすると「では契約しよう」ということになる。 当然だね。契約しなければ相手も不安だから。そんな時「ここに署名、捺印してね。悪いようにはしないから」という発言があった。 契約書にハンコを押して、正式に契約するわけだ。

以前にもお話した通り「ハイ、わかりました!!」ってな具合で、その場でハンコを押しちゃいけない。 もし「今度契約するから、その時にハンコ持ってきてね」と言われて、ハンコを持っていたとしても、だ。 必ず家に持ち帰ってしっかり中身を読もう、信頼できる人の読んでもらおう。そしたらよく解らないながら、疑問点が出てきた。当然話をしている相手に聞こう。

そこで、あなたが「これはどういう意味ですか?」と聞いたら、「あ、それね、何も問題ないよ。悪いようにはしないから」ってな答えが返ってきた。 おかしいよね、おかしいと思うよね。確かに(それまで彼が語ってくれた、いい意味での夢の話もあるから)信用はしているけど、 疑問に答えてくれないのは、ちょっと不安だよね。

でも、これ、実は結構フツーにあることなんだ。理由は簡単、契約書を持ってきたギョーカイの人も、中身がよく解らないだけ、なんだ。 「エッ、そんなことあるの?」 それがあるんだ。なぜかと言うと、その人は

 契約の重要性は知っている
 契約書が必要なことは知っている
 仕事を始めるには契約しなければいけないことは知っている

ので、どこからか契約書(の見本)をもらってくるんだ。でも中身は読んでいない。読んでもよく解らない… ってなことがあるんだ。 質問を受けても答えられない。だから「いいの、いいの。悪いようにはしないから」となっちゃうわけ。 決してその人が悪いわけでも、いい加減なわけじゃないんだ。

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   【7】 危ない人をフォローする人~権利の専門家たち  [2008/2/5]

音楽業界は権利の積み重ねで出来ているのに、そこにいる人は権利の事をよく理解していない。 これでは、もっと知らないはずの、ミュージシャンがそこに入っていこうとしたらものすごく怖い。 そこにいる人たちは、前回も言ったように、

 契約の重要性は知っている
 契約書が必要なことは知っている
 仕事を始めるには契約しなければいけないことは知っている

なのだけれど、中身までよく理解できていることは少ない。もちろん、契約が大事だという認識すら持っていない人はいる。 こんな人たちとは、お付き合いしないようにね。

では、よく理解できていない人はどうしているのだろうか。 実は、彼らの近くには必ず(と言っていいほど)よく解っている、専門家がいるんだ。 契約のことも、契約書の中身も知っている人が、近くにいるんだ、他の会社の横のつながりで知り合った人とか、前いた会社のそうしたセクションにいる人とかね。 この人たちに個人的に頼むわけ。 「今度新人と契約することになったんだけど、契約書の雛形をもらえる? 一杯ごちそうするから」 という誘いに 「いいよ」 って乗ってくれる人がいるわけ。

私もこういうお誘いは何度も受けた。おいしいものと、もちろんお酒が好きなもんでね(笑)。 早い話が、少々の(私のような人間を相手にすると、契約書を買った方が安いかも…)お金を負担して契約書の元になるものをもらっているんだ。 こんな時、ちょっと良心的な(私のような… 爆笑)人は「はい、これを使えばいいよ」 と契約書の雛形を渡すだけでなく、 「ちょっと簡単に説明しておくよ」 と言ってくれる。これで多少は勉強できるね。

ただ実際には、そんな説明、右の耳から左の耳、ということが多い。 なぜかと言うと(皆さんも同じかな)契約書なんて抽象的な表現の固まり、 そこに書かれていることが実際にはどのようなことを指し、どのように考え、どのように処理するかがよく見えないんだ。 見えるようになるには、少々訓練が必要なんだ。 でも、「右の耳から左の耳」 でもかまわないんだ。 というのも、後から疑問点が出てきても契約書の雛形をもらった人に電話で聞けばいいから。 このことは皆さんとの関係の中でも同じ。 あなたが 「これはどういう意味ですか?」 と聞いたら、「あ、それね、問題ないよ。ただちょっと確かめておくね」 とでも言っておいて、 後で専門家に確認するということをしているんだ。

そう、あなた方はすぐにOKの返事をしてはいけないし、ましてやすぐにハンコを押すことは厳禁。 それはギョーカイの大多数の人にとっても同じことなんだ。 こうした人も、何か問題にぶつかるたびに誰かに聞いて、勉強を繰り返しているんだ。 あなたは「エー、そんなの不安だなぁ」と思うだろう。 確かに気持ちは解る。けれども見方を変えれば、大事なことをあやふやなままにしない、とも言える。 その方が安心だ、とも言える、解らないままでいるよりもね。 だからこうとも言える。「即答しない、知ったかぶりをしない人は信頼できる」 と。

こんなふうに音楽業界にいる人ですら、契約の話はむずかしい。だから、社員10人規模のちょっとした会社にも契約の専門家がいたりする。 大きい会社なら、レコード会社はもちろん、音楽出版社にもプロダクションにも、必ずそういう人がいる。 契約の専門家って、この業界では結構たくさんいるんだ。

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