コメント&ストーリー by 藤田 浩


   【1】 Recording Engineer を志す人へ [1998/06/14]

今、アシスタントエンジニアとして働いている人の多くは、高校卒業後、専門学校に行って、それからレコーディングスタジオなどにはいったという人が ほとんどです。(大学に行きながら専門学校にも行った人もいると思います。)

また少数ですが、専門学校に行かず大学(又は高校)卒業から直接スタジオにという人もいます。

この仕事は、普通の会社のように定期的に採用をするということはあまり無く、人手が足りなくなった時に、随時採用というのが多いと思われます。サウンド&レコーディング関係の雑誌などにも時々求人広告などが出ています。(経験者を求めていることが多いですけど。)

まあ専門学校には求人の情報はそれなりにあるとは思いますが、自ら、 レコーディングスタジオなどに電話をしてみて直接アタックしていくのが一番だと思います。 (まあこういう個人活動は専門学校の先生達は嫌いますけど、 実際のところ積極的に行動していった方が可能性はあると思います。)

とはいうものの何の知識も無い人が直接押しかけてもなかなか相手にしてもらえない事が多いので、一応専門学校などで基本的な知識は勉強しておいた方が良いでしょう。

現在、エンジニア志望でスタジオに入ってくる人はかなりいるのですが、すぐにやめていく人も多く(根性が無いというか執着心が無いというか、まあアシスタントエンジニアというのはかなりきつい仕事ではあるのですが..)、意外と人手(人材)不足でもあるんです。

アシスタントはレコーディングが順調に進むかどうかに大きく作用するほど重要な仕事ですし、それを乗り越えてもらわないとエンジニア(ミキサー)にはなれないわけですから頑張ってもらいたい のですけど。

ちなみに、私は高校卒業後、普通の会社員をやっていたのですが(5年間程)、その時、遊びで友人とバンドを組んだりしているうちに仕事より音楽をやってる方が楽しくなり、これでは今の仕事に対して失礼だということで、じゃあ音楽の方を仕事にしようと思った訳です。それで会社を辞めて専門学校に行き卒業時に、レコードのクレジットでみた某ミキサー会社に押しかけたら、運良くというか神はいたというか、使って頂けたという事です。

※定期的な採用があまり無いため、押し掛けで採用されることもかなりあると思います。

ミキシングで音楽が生きたり死んだりします。
やりがいのある仕事ですから、是非頑張ってレコーディングエンジニアを目指して下さい。


---- いくつかの質問について ---

> スタジオ側がアシスタントを雇う場合、いつ頃になるのですか?

スタジオがアシスタントを採用する場合、「定期的な採用(新人、未経験者)」プラス「人手不足になった時に随時募集(経験者)」というかたちが一般的だと思います。採用の時期に関しては、それぞれのスタジオに、手紙、電話、電子メールなどで、問い合わせてみて下さい。

> 雑誌やインターネットで見る限りでは、レコーディングに関しての知識は
> 最初は余りいらない、とあるのですが、本当でしょうか。


新人として、スタジオに入った場合は、3ヶ月(〜6ヶ月)間くらいの研修期間があるのが普通です(スタジオによっては、最初は、掃除や電話番、お茶くみしかやらせてもらえないとこもあるかもしれません)。その間に先輩のアシスタントエンジニアの人の仕事を見て、または教わったりして、だんだん覚えていけば言いわけです。そして、3〜6ヶ月後にスタジオが、「アシスタントとして一人で仕事をさせても大丈夫だ」と判断した場合に、初めてアシスタントとして正式に仕事を任される事になります。

とにかく知識とか何とか言う事より、頭の回転が良い、人の話の呑み込みが速い、効率のよい行動をとれる、こういったことがすごく大事です。 (3〜6ヶ月経っても無知識というのは困るが。)

自分は知識があると思っている人でも、その知識というのは、ミキサー・エンジニアとしての知識であって、アシスタントとして必要な知識ではないことが多いです。

ミキサー・エンジニアとしての知識は、アシスタント期間(2〜9年間)に勉強すれば良いことで、アシスタント期間に、どういう意識で仕事をするかでエンジニアになれるかなれないかが決まる といってもよいです。

>なにか、これが必要!という才能や、感性などありますか?

上でも述べましたが、 頭の回転力(人の話の呑み込みの早さとか、いろいろな作業をやる際の手際の良さとか)、柔軟な考え方、オリジナリティーのある発想力 などが 必要だと思われます。

日頃から、人の話をよく聞いて自分で考えて効率の良い行動をとるということを心掛けて生活を送って下さい。

音楽や音に対する感性とかセンスとかは、いろんな音楽を聴いたり作ったりして自分で磨いていって下さい。(これを努力とか勉強とかいう感じでしか捉えられなくなった時はレコーディングエンジニアを志すのをやめて他の仕事を目指して下さい。)

実際の技術的なことなどは、インターン・アルバイト・誰かの弟子・正式入社、など何かしらの方法でスタジオに出入りできるようになってからでないと(現場でなければ)習得出来ないことが多いので、その前段階として、 今のうちはレコーディング・サウンド関係の雑誌や書籍などで、用語を覚えたり、なんとなく作業の流れをつかんだりしておくことが良いと思います。 (こちらは努力とか勉強とかという気持ちで頑張りましょう。)

> 親に迷惑が掛からない程度は貰えるのでしょうか?

それは、大丈夫です。たぶん一般の会社の新入社員と同じくらいはあると思います。しかし、最初のうちは、労働時間のわりには少ないかもしれませんが。まあ、たとえ、給料の安いとこでも、とりあえず生活は出来るくらいは払うと思いますよ。

※繰り返しますが、今、アシスタントエンジニアは結構不足しています。というのは、エンジニアになりたいと思って入ってきても、すぐに辞めていく人が多いのです。それだけ大変な仕事ですし、アシスタントという仕事そのものは決してクリエイティブな仕事とは言えないからです。しかし、アシスタントの仕事は非常に重要な仕事ですし、この期間に色々な事を学んだり、感性を磨いたりしてエンジニアになっていく訳ですから、是非頑張ってもらいたいと思っているのですが。

※最後に。

プロのレコーディングエンジニアというのは、多くの場合、クライアント (アーティスト、プロデューサー、ディレクターなど)が良いと思うものを作るのが仕事ですから、決して自分の感性だけで仕事が出来るとは思わないで下さい。自分が良いと思うものを作るのではなく、他人が良いと思うもの作る。もちろん両方が一致すれば最高ですけど。

他人の感性で仕事をしながら、自分の個性もちゃんと出し、完成度の高い作品を作る。これがプロなのです。このことは、作詞家・作曲家・編曲家・スタジオミュージシャンなどにもあてはまります。自分だけが良いと思うもの、自分の感性だけでものを作ること、これはアマチュアでも誰でも出来ます。もちろんそれが多くの人に認められれば、これは立派なアーティストですけど。


頑張って下さい。いつの日か、どこかのスタジオで会える事を期待しています。

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   【2】 プロの場合のMixの簡単な流れと考え方(私論)
           -- Mixにおいてのプロデューサーやバンドとのやり取り -- [1999/03/09]

レコーディング時の流れや会話の中で、あるいはMix前に直接要望等を聞いてつかんだサウンドを頭に入れた上で、まず自分なりのMiXを作り上げます。(Mixの途中でいろんな人の意見を聞きながらやると収拾がつかなくなります。自分の中でのMixを完成させておいたほうが後の作業をやりやすい。)

出来上がったMixを、クライアント(プロデューサーやアーティスト、アレンジャー、etc.)に聴いてもらいます。(まず最初にプロデューサーだけに聴いてもらう場合もあります。)

みんなの意見を聞きながらMixの細かい調整をして完成させていきます。

当然、いろんな人からいろいろと違う意見が出てくることも多くあります。それらの意見をまとめるのは、プロデューサーまたはディレクター、あるいはバンドのリーダーであったりします。

この時、自分(エンジニア)の感覚と、要求されるものとの間にギャップが生じることも、多々あります。が、基本的にエンジニアというのは、クライアントの望んでいるものを作り上げて、初めてお金をもらえる(自分で好きなように作って、これ買って下さい、というのではない)わけですから、クライアントの要求に応えることを第一に考えます。

クライアントの要求通り作っても、10人のエンジニアがやれば10種類の違ったMix(良いものもあれば悪いものもある)が出来上がります。相手が満足すればいいやという、投げやりな気持ちではなく、相手も満足し自分でも納得できるMixを作ろうという気持ちが大切です。(それを実現するには、もちろん技術も必要です。)

はじめのうちは、涙が出てきそうになるくらい悲しくなったり、暴れてしまいたいくらい怒りたくなったりすることもあるかもしれませんが、これが出来てこそ始めてプロといえるわけです。

これは、あるテレビ番組でやってたことですが、
ある人物の上半身が写った、まったく同じ(に見える)写真、AとBを、いろんな人に見せて、「どちらの写真に魅力を感じますか」と聞いたところ、多くの人が Bの写真を選んだのです。選んだ人にその理由を聞くと、具体的にどこが違うか分からないが、Bの方がなんとなく輝いて見えるとか、生き生きして見えるとか答えるだけなのです。

では、実際この2枚のまったく同じに見える写真は、どこが違うのか。実は、写っている人物の「ひとみ(瞳)」の大きさを Bの方だけ、定規を使わないと分からないくらい少しだけ大きくしてあったのです。

こういうことは、音楽のMiXにも当てはまるかもしれません。
まったく同じバランスや音色に聞こえても、何かを感じさせるMixと、そうでないMix。

それでは、そのポイントは何かというと、これは...個人個人で見つけていって下さい。(^^)

良いMixというのは、聴いて良い曲だなーとか良い歌だなーとかが感じられるMixなのです。ようするに、最終的には、感じるか感じないか、そこなのです。 (もっとも、感じる感じないというのも人それぞれですから、音楽など感性に訴えるものは...やっぱり難しい)

歌が大きいとか小さいとか、ドラムが大きいとか小さいとか、エコーが多いとか少ないとか、誰が聴いても分かるような、いわゆるサウンドの方向性は、クライアントが決めることであって、エンジニアはその方向性の中でいかに多くの人が感じるものを作り上げるかということが仕事というか腕の見せ所だと思います。(もちろん、方向性もエンジニアに任される場合もありますが。)

などと言ってきましたが、やはり人間ですから、どうしても感性が合わないとか、性格的に合わないとかいうクライアントが出てくる時があるかもしれません。

その時は、(次回から)そのクライアントの仕事は断るしかないでしょう。
もっともそういう場合は、相手もそう感じていることが多いですから2度とそこからの仕事の依頼はないと思いますが(^^;

以上、永遠の問題。

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   【3】 ミキサーFの、とある風景 [1997/09/03]

ルルルー ルルルー、
ミキサーの F は眠そうに細い目を開けた。
ベッドを出た。
仕事の電話だった。受話器を置いた後 F は思った。

「○○○○○か、最近聞いてないなぁ」。

F は、メンバーの Z氏 や M氏 の作曲家としての活躍は知っていたが、最近の○○○○○の音楽は知らなかった。 しかし、高校生の頃よく聞いていた あの○○○○○と仕事が出来るということで、嬉しさは感じていた。
F はすぐレコード店に走った。

メンバーの名前を調べただけで店を出た。F はケチであった。

レコーディングが始まった。最初、そのスローペースな進行に戸惑っていた F も、キーボード T氏 の根気強いプレイに根性とパワーを感じ、しだいにのめり込んでいった。

平成*年*月*日、スタジオではコーラス録音が行なわれている。腹踊りをしながらもちゃんと歌っている M氏、それを見つつ笑いながらもちゃんと歌っている T氏、それを無視しもくもくとリズムを取りながらちゃんと歌っている H氏、頭をかかえそれをまとめている Z氏、そこでは個性的な4人が一体となった美しい風景が繰り広げられていた。

こうして、自然でホカホカの焼き立て4食パンのような味わいのアルバムが完成した。

Fは、この1ヶ月間の充実した生活に満足感を覚え「これからもどんどん仕事が来ますように」と神に祈った。
ベッドに入った。
そして眠そうに細い目を閉じた。

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