ハルじいさんの著作権コラム  -   ← シリーズ1へ     |    【 シリーズ2 】


   【8】 契約で一番大事なこと  [2008/2/13]

お待たせしました、ようやく契約の話だ。
「契約について語るというのに、全然出てこないじゃない…」 全くその通りだった。
でも、ここまで読んでくれた人たちは、

 なぜ契約が必要か
 契約がどうして大事なのか

を理解してくれたことと思う。やっぱりこのくらいしつこくやらないと 「契約が大事なのは知ってるけど、

 よく解らないから
 まだ必要ないから

その時になったら何とかなるんじゃない…」 なんて考える人が出てくるから。

さて、本題。契約で一番大事なことはなんだろうか。大切なことというか、ポイントはいくつかあるけれど、私は

 どうしたら契約をやめられるか

だと思っている。 「これから音楽を一生懸命やってこうとしている時に、何でやめることを考えなければならないの!?」 これまた、全くその通り。 でも、契約状態を解消する方法を知っておくのはとても大事なんだ。会社の立場で考えよう。 売れる(「儲かる」と言い換えてもいい。会社にとってあなた方は金のなる木なんだ。 すべて 「金、金、金」 じゃイヤかもしれないけど、それが仕事、プロというもの)と思って契約したのに、ちっとも売れない。 このままじゃお金が出て行くばかり… 残念ながら解約するしかない。俗に言う 「クビ!!」 ってヤツだ。 これは致し方がない。みんながみんな売れるとは限らない、というかほとんどの人は売れないからだ。

反対にミュージシャンの立場からするとどうなんだろう。 「契約してくれたらAvexからデビューさせるよ!」、「ホントですか!!」 なんて話があったとしよう。 というか、よくありそうな話で怖いんだけど… だけど、ちょっと考えてみてほしい。 その人がどれだけAvexに影響力があるか、どれだけAvexに食い込んでいるか知らないけれど、 相手も大きなレコード会社、すぐに 「よし、デビューさせましょう!」 ってなるわけがないよね。 「AvexからCDを出せる可能性はあるよ」 とか、もっといえば 「Avexの担当者をよく知っているので、話をするよ」 ぐらいの方がよっぽど信頼できる

そこまで行かなくても 「契約してくれたら、最低3万枚は売るよ」 とか 「契約してくれたらバンバン、プロモーションするよ」 という話があったとしよう。 それが思い通りにいかなかったら。確かにそこそこは売れているけれど、そんなにプロモーションしてくれてるようには見えない。 かといって 「もっとプロモーションしてください」 なんて言ったら、相手は逆にキレてしまうかもしれない。 確かにあなたの思うことと、会社が考えることで差ができることは、ある。 でも、誰がどう考えても、プロモーションしていない=仕事していない、こともある。そんな時は事務所を移りたくもなるだろう。

事務所を移る、移籍なんて簡単にしてほしくない。一つの事務所でうまく行かなかったら 「ハイ、次」 では信用してもらえないよね。 それにあなたのことをよく解った人でさえちゃんとやってくれないのだから、次の事務所がちゃんとやってくれる保証はどこにもない。 何しろ、あなたのことを知らない人にもう一度説明して解ってもらうのはメンドくさいよね。 簡単に移籍はしない方がいい。けれども、どう考えても移籍の方がいいという結論になった。 そこでどうしたら解約できるかどうかを契約書で確かめてみると…  契約書のどこを見ても、なんと今すぐ移籍=解約することが出来ないではないか!!!  ということが起こるかもしれない。どうしてこんなことが起きるのだろうか。残念ながら、それは次回で。

▲ Page Up

   【9】 解約の仕方 〜 それから、その前にすること  [2008/2/16]

本当なら事務所に不審なんか持たないで、お付き合いしていければいいに決まっている。 ミュージシャンと会社は一心同体、運命共同体だ。 確かに売れないとクビになったりするけれど、会社の方だってボランティアをしているわけじゃない。 売れれば売れるほどミュージシャンは儲かる、ということは会社も儲かる。 だから会社も必死になって売ろうとするんだ。 でも、しつこいけれど、そんなに必死になっても売れるアーティストはごく一部。 それ以外の人たちは 「プロとして」 はお引取り願うしかない。

それはともかく、一心同体のはずの事務所に不審を持ってしまったら、こちらの方からやめることを考えなければならない。契約書には、

 どうしたら契約が終了するか
 どんな時に契約を解除できるか

が書かれている。会社がつぶれたとかなら当然のことながら契約は終了することになる。 それ以外の理由で終了することはないだろう。そのことと並んで契約期間が書かれている。 この契約は 「いつからいつまで有効です」 というものだ。

(ちょっと横道)
契約期間には「著作権の保護期間中」というものもある。 これはどういうことかというと著作権の保護(有効)期間=著作者の死後50年間という意味。 ずいぶんと長いものだ。同じように原盤=演奏した音に関しては著作隣接権の保護期間=最初にCDが発売されてから50年間というものもある。 こうした契約期間の定め方も(だいぶ減ってきたとはいえ)あることはある。著作権契約やアーティスト契約の場合だ。

前回、今回問題にしているのはアーティストとプロダクションとの契約、いわゆるマネジメント契約というものだ。 この場合には、1年とか2年とか決まっている。(ちょっと横道)に言ったものと比べるとずいぶん短いね。 これはお互いに(会社ばかりでなく、アーティストにとっても)有利だからだ。 会社からすれば 「クビ!!」 にしやすい一方、アーティストからすれば 「信頼できないからやめる」 ことがしやすいわけ。

問題なのはこの契約期間には、ほぼ全部に自動更新条項なるものがくっついていることだ。 これはどういうことかというと 「〜日以前に終了の意思表示がなかったら、同じ条件で延長」 しますよ、という意味。 期間終了の前日に 「今日でクビね」 と言われたらたまんないよね。 期間終了前に心積もりできるようにしてある。 この 「〜日以前」 は30日とか60日とか、90日とかあるが契約書に書き込まれる

さて、事務所に対して我慢に我慢を重ねたけれど、もうやってられない。 やっぱりやめようと思ったのが3月15日だったとしよう。 そこで解約するために契約書を確認したら、契約期間は4月30日までの1年間だけど、解約の気持ちは60日前までに伝えなければならないことになっている。 60日前ということは2ヶ月前(というふうに考えるのが普通)、ということは2月末日(今年だと29日だね)までに言わなきゃいけない…  ということは、もう、過ぎちゃってるじゃない!! 残念でした、もう1年我慢しよう…

というわけにはいかないよね。 一度イヤになったものはもう回復不能、 「顔を見るのもイヤ」 状態だよね。 ならば、ばっくれる!? それは最悪。 悪徳の会社、人(でなくても、ちゃんとした会社でもそうだよ)なら、損害賠償を請求してくるだろう。 だってあなたの方が、重大な契約違反してるんだから。 ならば 「誠心誠意お願いする」 ? でも、話をしたくないんだよね、あなたとしては。 人間関係ってよく出来ていて、あなたがそう思ってる時は相手もそう思ってる。 相手も話をしたくない。でも話をしないと困るのはあなたの方。 で、話をする。やっぱりダメ。このままじゃ、我慢するしかない。 「だから、ハンコ押す前に契約書をよく読みなさいって言ったでしょ!?」 的なノリだね、私としては。 それはともかく方法は、ある。でもここでは言えないなあ…

▲ Page Up

   【10】 契約の中身 〜 大事なポイントはどれとどれ?  [2008/2/26]

いきなり、しかも長々〜と脅してすまなかった。でも終了できない契約なんて最悪でしょ。 「そんなもの世の中にあるの!?」って、これがあるんだ。 詳しくは、とてもじゃないけど言えないが、どう考えてもアーティストをだまくらかして結んだ契約を、この目で見たことがある。 相当有名なアーティストを相手にね。 「こうすれば契約は終了しますよ」とは、一応書いてあるんだけれど、物理的に不可能なんだ。 巧妙なだましのテクニックを見た気がする。

このように契約をどうしたら終了できるかというのは、大事なポイントの一つだ。 これ以外に大事なポイントは何かについてお話しよう。それは、

 1.何をしなければいけないか、何をしたらいけないか
 2.契約期間はいつからいつまでか
  そして、
 3.いくら、どのようにもらえるか

終了の仕方と合わせて、この四つがポイントだ。契約終了の話はさんざんしたので、それ以外のことを考えてみよう。

初めに指摘しなければならないのは「何をしなければいけないか、何をしたらいけないか」ということ。 「また、そんな当たり前のことをどうして言うの?」なんて言わないで。 契約に書かれている義務を履行できなかったら、契約解除になるばかりか損害賠償を請求される、かもしれない。 反対にやってはいけないことをやったら… こちらの方がもっと怖い。 どうなるか見当がつかないからだ。 しなければならないことをしてなかったら、少々遅れてもそれをすればすむ(かもしれない)。 反対だと結果も、相手の反応も全く解らない。そこが一番怖いところ。

だから契約にはこうしたこと(=つまり目的、だね)が最初にはっきり書いてある。 これは出来るだけ詳しく、具体的な方がいいんだけど残念ながら音楽業界の契約では漠然としていることがある。 音楽業界内の「常識」に従うことも多い。その辺は少々解りにくいだろう。

次に契約期間。これについてはいくつか触れてきたが、ここでまとめておこう。 音楽業界では「2008年3月1日から2010年2月28日までの2年間」と完全に期間が決まっている契約はきわめて珍しい。 大体の場合「ただし期間満了の60日以内にいずれか一方から文書による契約終了の意思表示がない限り、同一条件で1年間延長される」 というような自動更新の条項がついている。

まあ、お互いの信頼関係があって、いちいち契約書を見る必要がない、なんて場合は延々自動更新でもいいかもしれない。 けれども条件を変えたいってこともあるだろう。 一番が「もっとお金がほしい」みたいな。 そうすると契約満了の時期(の自動更新にかかる寸前)が話をするに適当な時ということになる。 契約満了しそうだと、相手が何か言ってくるのではないかと待ち受けているからね。

それから最後に(多分皆さんには一番興味があるだろうけれど)一体いくらもらえるかということ。 これしか興味のない人は、音楽業界でも結構多い。 しかしこれは、複雑怪奇。次回以降何回かに分けてお話しすることにしよう。 でもその前に、契約の種類について触れなければならない。ややこしいので覚悟しておいてね。

▲ Page Up

   【11】 アーティスト契約というもの 〜 初めての契約  [2008/4/2]

長らくお待たせしてしまった。まとめていたらドツボにはまり… なんてよくあるでしょう、皆さんも。 言い訳はこの辺にして、さっそく本題に入ろう。音楽に関係する権利は著作権と原盤があった。 この二つはCDなどで使われる場合は同時なので、ゴチャゴチャになりがち。けれども、

 著作権=詞や曲に関するもの
 原盤=音(演奏)に関するもの

なのだから、きちんと分けなければならない。ということは、契約にも二通りあるんだね。

皆さんが初めて契約書を見る機会はいつだろう。大手レコード会社との契約? プロダクションとの契約? あるいは? でも、いきなりそうは考えにくい。 やはりどこかのインディーレーベルからCDを発売してもらうための契約が初めてではないだろうか。 そうして、ある程度ヒットして、注目を受けて、… というわけで、プロダクションとの契約などはそれからの話だろう。

どのようにしたらインディーレーベルからCDを発売してもらえるのだろうか。 以前にもお話したオーディションに通過するというのも一つの手だろう。こちらから持ち込むという手もあるだろう。 ここで(私のコラムを読んでくださってる方には余計だが)注意を一つ。 「CDを出してあげましょう。だから〜〜円(50万〜100万くらいかな)出してください」という話は、乗らないようにしておこう。 ちゃんとCDを発売してくれるところも、もちろん、ある。でも売れることはないだろう。発売してくれないところもある。 これはまずいよね、「詐欺だ!!」とすぐには言い切れないけれど…

ちゃんとしたところからCDが発売されることになった。そうしたら契約を交わすことになる。その時には、

 著作権の契約
 原盤の契約

二つを交わすことになる… とは限らない。とは言いながら、皆さんが初めて接する契約書は一緒くたのこともあるだろう。 一緒くたになってて「アーティスト契約」とか「実演家契約」とかいう名前になってる。 インディーレーベルからCDを発売してもらう時に結ぶ契約はそうかもしれない。 「本当は二通りの契約なのに、一本になっちゃってる。これも詐欺!?」なんてあわてない、あわてない。

2種類の、別の権利が一つの契約書に書かれていても、そのことだけで「詐欺だ!!」ということはない。 レーベル=レコード会社と契約するのはCDを発売してもらうため。 ということは原盤に関する契約(これがアーティスト契約あるいは実演家契約というもの)をするわけだ。 では著作権は? 確かに著作権は色々な形で印税が発生して、それを受け取ることができる。 でも、そうなるのは売れてからの話。演奏で使われて印税が発生するなんていうことは、自分でライブをやる時くらいしかないでしょう。 ましてや着メロで使われるなんて、フツーないよね。

そうすると著作権の印税がもらえるのは、発売されたCDだけ、であることがほとんど。 CDに関する印税なのだから、原盤の印税と一緒に著作権の印税ももらっちゃえば(レコード会社としては「払っちゃえば」)お互い手間が掛からないよね。 だからインディーレーベルは著作権と原盤と、二つの権利を一括した契約書を用意するわけ。

ではいくらもらえるのだろうか。ここでは二通りある。 一つが「1枚当たり(著作権、原盤込みで)100円」というような印税の形で。 もう一つが「(著作権、原盤込みで)30万円」というような形で。 あるいはそのどちらかという形で。 ここであなたは考える、「1枚100円だとすると30万円もらうためには3,000枚売れなきゃいけない。そんなに売れないよね、僕のCD。だったら30万円もらお!!」

それも一つの考え方。ダメ、とは言わない。けれども契約書をよく読んでみてね。 相手が30万円で一切合財買い取る、ギャラとして30万円払う、という話なら少し考えよう。 本当にその相手に権利を渡してしまってかまわないのか、特に著作権まで渡してしまってかまわないのか、考えよう。 なぜなら買い取られてしまったものは、もう二度とあなたの自由にはならないのだから。 原盤はまだいい。またレコーディングし直せばいいのだから(あんまり紳士的じゃないけれど…)。 でも著作権は、メンドーなことになる、かもしれない。

細かく言うと、(でもとても大事なポイント)「すべての権利を譲渡する」形は要注意。 それに対して「30万円を印税として支払う」形は、文言上はセーフ。 後の方だと、「原盤、著作権の権利までは渡してません」という意味にとらえることもできるから。でもその違いはビミョーなので注意してね。

どっちを取るかはビミョー、でもここで、上の二つを「足して2で割る」みたいな都合のいい形がある。

 権利は渡さないままで
 1枚当たり100円の印税をもらう
 その印税の前渡金として30万円もらう


「そんな虫のいい話、あるの?」もちろん、ある。 ただ、あなたの方から「こうしてください」とは言いにくいだろうなあ、仮に「OK!!」だとしても、いやがられるだろうなあ。 言い出すかどうかは、あなた次第かな。

▲ Page Up

   【12】 著作権だけはどうなるのだろう  [2008/4/10]

前回は原盤の話、ついでに著作権がくっついている契約の話をした。 それでは、著作権だけの契約はどうなっているのだろう? その前に、著作権とはどんなものだったか。 著作権は「作品が出来上がった瞬間に」権利が発生する。ならば、すぐにお金がもらえる… わけはないよね。 何しろ誰かに使ってもらわなければ、お金になることはない。 自分で自分に払ったってしようがないよね(ただしバンドをやってる場合は、よく話し合った方がいいかもしれない。 メンバーの誰かが他の連中とライブをすることもあるだろうから)。

では誰かが使ったら、すぐにお金がもらえるのだろうか。 よく知ってる人、CDを出してくれるレコード会社ならあなたのことを知ってるから、お金を払ってくれるだろう。 でも他の人たちは? 払えないよね。だってその曲が、あなたが作ったものだということを誰も知らないのだから。

それに、よく知ってる人たちだからといって、いちいち

 「使わせて」→
 「いいよ。でもこれだけ払って」→
 「うん、解った、払うね」

っていう手間が掛かる。これはいかにも面倒だよね。 知ってる人たちが相手でも面倒なのに、知らない人たちからもそんな話があったら、これは大変。 曲を作ったり、演奏したり、音楽活動している暇なんかありゃしない。

そこで普通は、音楽出版社に預ける、ということをする。 音楽出版社というのは色々な人が作った曲を、色々な人にプロモーションして、使ってもらえるようにするところ。 その結果として、作った人に払うお金の一部をもらう。ということで、

 楽曲のプロモーション
 著作権の管理

をするところだと思っておいて(実際には他にもあるんだけどね)。 音楽出版社に預けておけば使いたい人からの問い合わせは受け付けてくれるし、ちゃんとお金が払われたかどうかも確認してくれる。

便利は便利、ただそのために半分持っていかれる。 ただ「面倒なことを代わりにやってもらう」だけで半分も払う必要はあるの? それはむずかしいところ。 でも、誰も知らない新人だったら、むずかしいとか言ってる場合じゃない。ありがたくお世話になろう。 そこで音楽出版社と契約ということになる。が… こっちから「契約してください!!」って言ったって、向こうは「ン!?」。 お金にならなければ意味がないからね。ということはある程度売れているCDの中での曲の作者となら、契約しようということになる。

向こうから出てくる契約書は、ほとんど1種類だと思う。 MPA(そのまんま「音楽出版社協会」という、音楽出版社の団体)が作っている統一のフォームがあって、ほとんどの音楽出版社はこれを使っている。 実はこれには解説がついている。細かくて、よくできているのだけれど、全部読んで理解するなんてのは素人じゃ無理。で、ご〜くかいつまんで言うと、

 著作権のすべてを譲渡する
 取分はこれだけ(初めは50%だろう)
 期間はこれだけ(10年ということが多いだろう)

この三つに集約される。一番初めに「すべてを譲渡する」と書いた。 「えっ、そうすると僕の書いた曲は、僕のものじゃなくなっちゃうの?」そうなんだ。 権利を渡してしまうわけ。その代わりに印税をもらうことになる。

こうした契約を交わすことによって、音楽出版社は「著作権者」となる。 「著作権という権利を持っている者」というわけだ。ただし、あなたは「著作者」のまま。 こんがらがってくる。著作者と著作権者って、どこがどう違うのだろうか。

▲ Page Up

   【13】 作家と音楽出版社の関係 〜 著作者と著作権者  [2008/4/18]

前回音楽出版社と契約すると、いいことがあるという話をした。 楽曲のプロモーションをしてくれるし、管理上の面倒なことをしてくれる。 便利で、ありがたい。でもその代わりに権利を渡してしまうということだった。 印税はもらえるけれど、窓口は音楽出版社。 「悪いようにはしない」だろうけど、自分の書いた曲なのに、自分の自由にならなくなっちゃう… なのだろうか。

「その通り」とも言えるし、「そうではない」とも言える。 その曲をどうするのか、どうやってプロモーションするのか(誰に唄わせるかということを含めて)は、音楽出版社のやり方になる。 けれどもあなたは著作者のまま。ということは、「著作者人格権」はそのまま、あなたにある、のだ。 「著作者人格権って一体何?」著作権だけでも十分面倒なのに、他の権利もあるなんて。ややこしいよね。 さてこの権利、文字面を見ると「著作者の人格権」のよう。 まあ、そうはそうなんだけど、どちらかというと「著作物の人格権」と考えた方がいいかもしれない。

くさい言い回しで(失礼!?)「作品は自分の子供のよう」なんてのがあるよね。 それに作品は精魂込めて作ったものだから、作った人の気持ちを尊重しようというわけ。 具体的にどんなものを指すかと言うと、

 氏名表示権 ← この作品は私が書いた
 公表権 ← こういう形で発表してね
 同一性保持権 ← 作った通りにやらなければダメ

それから

 名誉声望保持権 ← 私をけなしたりしないでね

となっている。何となく解ったような、解らないような。また、当たり前のことであるような。

本人の名誉を傷つけたら「名誉毀損」ということで訴えられる。ところが作った作品は人ではない。 だったら勝手に手を加えてもいい… ことはない、ので、こうした権利が認められたわけ。 でも実際にはどのように使うのだろう。 亡くなられたばかりの人の話なんで、ちょっと生々しいけど、川内康範さんと森進一さんの話をしよう。 1年くらい前、川内さんは森さんに抗議した。 彼の作詞した「おふくろさん」が(自分の意図とは関係なく)保富庚午さんの詞をつけた形で歌われていたので、これを「止めろ」と言ったんだ。

どこかで行き違い、「言った、言わない」があったんだろうね。とても不幸な話。 でもこれ、無断でやっていたら上に書いた同一性保持権の侵害になる。 これは著作権者になった音楽出版社には関係ない。 著作者、川内さんだけの権利。川内さんが「ダメ」と言ったら、どうしてもダメなんだ。 その上、川内康範さんは他の作詞をした曲も歌ってはダメとなってしまった。 そこで森さんは1年の間、歌うのを自粛していた。

そうしたら、その川内さんがお亡くなりになられてしまった。 そうすると同一性保持権を含めた著作者人格権はどうなるのだろう。もうどうしようもないんだ。 だって本人にしかない権利なんで、その人が亡くなられてしまったら、もう誰も判断できないからだ。 「本人が死んじゃったんだから、もういいんじゃない!?」というわけにもいかない。 生前本人が強硬に反対していたから、そしてそれをみんな知ってるから。 でも「おふくろさん」+α(!?)はともかく、他の曲はどうなんだろう。 法律的に考えれば、森さんは歌っても問題ないはずだけど、ちょっと難しいところ。 でもご本人がいないので、どうなってしまうのかなあ。

▲ Page Up

   【 HOME へ戻る


 音楽業界仕事Navi